研究概要 |
本年度の研究は、理論研究と実証研究融合のための第1ステップである。わが国には、「その他の包括利益」に相当する項目はあるが,個々に貸借対照表の資本の部に記載されているだけであり,総括する概念は未だ存在しない。包括利益を報告する会計実務も行われていない。包括利益ディスクロージャーは,わが国にとって必要であろうか。本研究では、第1に、包括利益概念と現在の会計基準を会計理論的に分析を始めた。資産負債中心観対収益費用中心観における包括利益概念の対比、リスク情報開示における意味、時価会計との関連性などの問題の解明を行い始めた。第2に、会計情報の意思決定支援機能および経済エージェント間の最適契約支援機能を中心に、シグナル理論等を用いた一般理論分析を始めた。第3に,包括利益情報の有用性を、株価リスク・リターン効果を調べる実証研究のため、前段階として、現在開示されている利益情報におけるAccrualと株価の関係、企業投資意思決定のため現在のROE測度で正しく資本コストが測定できるか、また課税利益が異なる定義の利益について課税されるときの株価への影響などについて、それぞれ実証的な解明を始めた。第4に、わが国で包括利益そのものが計算表示されていないため,実験を行い包括利益の情報効果と有用性とを検証するための方法の検討を開始した。年度当初は、第4の実験のため、謝金を申請していたが、リサーチデザイン設定に未だ時間がかかることから、主として、1、2、3の研究を本年度は行った。そして、これら研究のため、本年度はその他項目からの支出により、アナリストの利益予測情報および英国における包括利益のデータベースの購入をそれぞれ行った。3についての研究成果は、国際学会で2度発表を行った。さらに、国際学会発表等の際、香港、米国、フランスの研究者と討論およびインタビューを行い、論文のさらにの改善を行い、これを反映した論文を今年度の国際学会での3回の発表のため2篇を投稿した。
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