研究概要 |
1.昨年度までの研究でHeisenberg不確定性原理として唱えられてきた関係の適用範囲を解明し、適用範囲に制限のない一般の測定について成り立つ関係を確立することができた.本年度の研究では、完全正写像値測度(インストルメント)の数学理論を基礎にして,不確定性原理の正しい定式化を測定過程のモデルと独立にその統計的性質だけによって確立することに成功した. 2.さらに以上の研究を発展させて、二つの物理量の結合測定における測定精度に関する不確定性関係を導くことができた.従来、物理量A, Bめ結合測定における測定誤差ε(A),ε(B)に関しては、関係式ε(A)ε(B)≧(1/2)|<[A, B]>|がHeisenbergの不確定性原理の表現と考えられていたが、その証明は一般的には与えられていなかった.Arthurs, Kelly, Goodman, Ozawa, Ishikawaなどの研究成果により、1990年代初頭に上の関係は、A, Bの両者について不偏測定の場合に証明されたが、一般の場合の関係については知られていなかった。本研究で、この未解決問題を解決することができた.つまり、一般的に成立する式はε(A)ε(B)+ε(A)σ(B)+σ(A)ε(B)≧(1/2)|<[A, B]>|であり、A, Bの誤差がともに対象と無相関の場合に本来のHeisenbergの不等式が成立することを、POVMの数学理論から厳密に証明することができた. 3.Wigner-Araki-Yanaseの定理は1952年にWignerによって最初に発見された測定の制約であるが、これと不確定性原理の関係を解明することは長年の未解決問題となっていた.本研究で、Wigner-Araki-Yanaseの定理を定量的に導くことに成功した.これにより、Wigner-Araki-Yanaseの定理は従来の限定された不確定性原理の定式化からは導かれないが、不確定性原理の新しい普遍的定式化から容易に導かれることが示された. 4.次に不確定性原理と保存法則の帰結として,スピンの成分で計算基底を表現するような量子計算実現のための標準モデルでは、角運動量保存法則によって引き起こされる量子計算素子実現の精度に一定の量子限界が存在し、nビット以下の補助量子ビットをもつようなユニタリ作用素で物理的に制御否定素子を実現する場合に、少なくとも1/(4n^2)以上の誤り確率が発生することが導かれた。
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