研究概要 |
本研究の目的は,研究代表者である根上が1986年に提唱した「有限な平面的被覆を持つグラフは射影平面に埋め込み可能であろう」という予想の解決に向けて,組織的な研究を行うことである。その予想は国内外の位相幾何学的グラフ理論研究者によって支持され,「平面被覆予想」と呼ばれて研究が続けられている。今年度も「平面被覆予想」に関連する国内外の研究動向を調査するためにスロベニアで開催された位相幾何学的グラフ理論の国際会議への参加を予定していたが、年度当初のSARS騒動のために参加を断念した。そこで、それを補うために、米国におけるグラフ・マイナー理論の研究に詳しい河原林健一氏を招聘し、講義を行ってもらった。それに伴う共同研究によって、閉曲面上のグラフの部分構造に関する結果を得ている。また、前年度に得られた知見に基づいて、グラフの合成的平面的被覆の理論を構築し、予想の命題における「平面的被覆」を「二重被覆を経由する平面的被覆」に置き換えると、予想が成立することが明らかになった。また、その理論の代数的な側面を強化し、有限群論の成果と結びつけることで、新たな進展が得られるのではないかという感触を得た。それに付随して、グラフの被覆に対するゼータ関数とL-関数に関する代数的な理論を構築することができた。この部分に関しては、韓国の項浦工科大学のグループとの共同研究が進行しており、さらなる発展が期待される。さらに、ハミルトン閉路に注目することで、球面上の2つの三角形分割をつなぐ対角変形の手数の評価が既存の結果よりも飛躍的に改善できることが明らかになった。これは「平面被覆予想」と直接的には関係しないが、平面グラフの全体的な構造を調べることで「平面被覆予想」の解決の道を開こうという着想を示唆するものになっている。
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