研究概要 |
量子物理学に現れる線形・非線形の偏微分方程式あるいは自己共役作用素について様々な角度からの研究を行った。15年度中における研究代表者・協力者の研究業績は以下のとおりである。 1.電磁量子力学の単純化であるネルソンモデルのハミルトニアンに対するスペクトル散乱問題について研究し,一光子以下の部分についてスペクトルの構造を決定するとともに散乱理論における波動作用素の存在を証明した.同時にチェレンコフ放射の一つの数学的基礎付けを与えた. 2.時間に周期的に依存するポテンシャルを持つシュレーディンガー方程式に関して研究し,散乱解にたいする分散型の評価式ならびにStrichartz不等式と呼ばれる一連の評価式をえた。また時間周期系の束縛状態は摂動に関して不安定で,束縛状態を保存する摂動はポテンシャルの空間の中で余次元無限大のきわめて小さい集合の中にあることを示した. 3.シュレーディンガー方程式においてポテンシャルによって生成されたレゾナンスが系の時間発展に及ぼすメカニズムを明らかにした. 4.ランダムな磁場を持つ2次元離散シュレーディンガー作用素のスペクトルの構造を研究しスペクトルが殆ど確実に点スペクトルからなること(アンダーソン局在)を示した。 5.時間に関して解析的に依存する系に対して断熱近似の誤差のパラメータについての指数減衰を示した. 以上の研究の推進のため,研究代表者・分担者はその所属する機関で研究セミナー(東京大学数理科学研究科「関数解析セミナー」および学習院大学理学部「スペクトル理論セミナー」)を定常的に開催した。また研究代表者・協力者は15年6月に海外から招聘した研究者2名を加えて研究集会「数理物理と微分方程式」を開催し研究成果を公表して研究情報の交換を行うとともに若手研究者の育成を計った.また研究代表者は16年2月ドイツの「レゾナンス」に関する研究集会に出席して研究情報の交流を行うとともに研究成果を発表した.
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