研究概要 |
本研究では部分双曲的力学系のエルゴード的性質について研究した.最も重要な成果は2次元の部分双曲的な写像には通有的な条件の下で有限個のエルゴード的な物理測度(アトラクターの性質を持つ不変測度)が存在して,ルベーグ測度についてほとんどいたるところの点の軌道の分布はそれらの物理測度のいずれかに漸近するという結果である.この結果は研究期間中にフランスとブラジルのグループによって検証され2005年に出版されたが,その過程で本科研費による補助は非常に重要であった.ここで得られた結果を3次元以上に拡張することがその後の目標であったが,そのためにはこれまで力学系理論であまり用いられて来なかった関数解析的な手法について研究する必要があることが次第に明らかになってきた.そのためそれまでの研究の方向を多少変更し,V.Baladi, A.Avila, S.Gouezelといったフランスの研究者と共同研究を行った.その研究の成果としては(部分)双曲的な力学系の構造に対応したいくつかの超関数の空間を構成し,それを双曲的な離散力学系の相関の減衰や力学系のゼータ関数に関する問題に応用したことがある.また連続力学系の場合にも拡大的半流の時間1写像(これは部分双曲的写像になる)の転移写像を同様の超関数の空間に作用させることでルエル共鳴と呼ばれる現象が起こっていることを示すことに成功した.これは離散力学系の場合にはこれまで知られていたが連続力学系の場合はこの研究によって初めて示されたもので,本研究で開発された手法が真に新しい成果を生み出しつつあることを示している.今後は我々の手法を双曲的な流れや高次元の部分双曲的力学系に当てはめることで様々な成果が得られることを期待している.
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