研究概要 |
本研究は、我々が開拓し、世界で初めて成功した「(d,3He)反応によるπ中間子の深い束縛状態分光」を更に発展させ、原子核物理の中心的課題の一つである原子核内でのカイラル対称性の部分回復を研究することを目的として行われた。具体的な研究テーマは以下の2点である。 1.π中間子錫原子の深い束縛状態(1s基底状態)の束縛エネルギーと吸収巾を精密かつ系統的に測定し、原子核中でカイラル対称性が部分的に回復していることを示す。 2.(d,3He)反応を他の中間子、すなわちエータ(η)及びオメガ(ω)が原子核に束縛された状態の生成に応用する。束縛エネルギーと巾を測定し、これらの中間子の核物質中での有効質量を決定し、カイラル対称性の回復に関する更なる証拠を示す。 本年度の成果は以下の通り。 1.π中間子錫原子の1s状態の束縛エネルギーと巾から、原子核中でのπN散乱長のアイソベクトル部分を導出した。これを、すでに知られている真空中でのπN散乱長と比較したところ、真空中での値よりも顕著に増大していることが見いだされた。この結果と、量子色力学(QCD)有効理論との比較から、原子核中でカイラル対称性が約35%回復していることが明確に示され、その成果はPhysical Review Letters誌に掲載され、当初の目標を達成して研究が完了した。 2.ドイツのGSI研究所においてη中間子と原子核の束縛状態の探索実験に着手した。しかし、これについては、研究代表者が別テーマで申請した特別推進研究に採択されたため、年度途中で本研究課題を辞退することになり、研究が完了していない。
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