研究概要 |
本研究の目的はCERNにおけるDIRAC実験を遂行する事によって,π^-とπ^+がクーロン力で束縛されたπ^-π^+原子の崩壊寿命を直接測定し,π中間子のS波散乱長を求め,これをカイラル摂動理論で計算した散乱長と5%以内の精度で比較することにより非摂動領域でのQCDの検証を行うことである. 1998に新しいこの実験のためのビームラインが完成後徐々に装置を改良し,又プライマリビーム強度を上げながらデータの取得を行ってきた.本年度は6ヵ月間ビームを貰い,順調にデータ取得を行った. 現状で,得られたデータの質は良く,2000-2002年に取得したデータについて今解析を進めている所である.標的はPt, Ni, Tiについてデータを取得している.2002年のデータのすべての解析が終れば±14%の精度で寿命が決定でき,2002年のデータ取得後には所期の5%の精度で10%の精度で散乱長を決定できるものと思われる.実験結果並びに実験装置については国際学会等で報告しているが,現在いくつかの論文を投稿中/準備中である. 本年度も亦上記に平行して種々の技術的な改良を行ってきた.トリガー,トラッキング両方の役割を負っているシンチレーティングファイバーホドスコープを既存の2面に斜めの座標を読むための1面を加え,効率,棄却率ともに改良できるようにした.これは本年度データ取得に先立ってスペクトロメータに挿入され,高い信頼性と検出効率でデータ取得に役立ってきた.更に今後Kπ原子の寿命測定を視野に入れ,より強い1次ビーム中で優れたトリガーを作るための新しい0.25mmファイバーを用いたホドスコープのプロトタイプを夏までに制作し,テステビームラインでテストを行ってよい結果を得た.これに基づき年度の終りまでに5cm×5cm2面のホドスコープを制作した.これは来年度にテストの予定である.
|