量子ゆらぎ(零点振動)のため、0K近傍でも電気分極が揃った状態(強誘電相)を実現できず、電気分極がバラバラな状態(常誘電相)のままでいる量子常誘電体と呼ばれる物質がある。典型的な例がSrTiO_3である。最近SrTiO_3の酸素^<16>Oをその同位体^<18>Oで置換したSrTi^<18>O_3(STO18)が相転移温度T_c=422K以下で強誘電性を示すことが報告された。本研究の目的は、この強誘電性の動的発現機構をフォノンの立場から解明することである。本年度はSrTi(^<18>O_χ^<16>O_<1-χ>)_3で置換率がχ=0.53(STO18-53)とχ=0.86(STO18-86)の試料で音響フォノンと光学フォノンを光散乱実験で測定した。結果は次の通りである。 (1)Tc以上で2重に縮退しているc_<44>横波音響フォノンとEg対称性光学フォノンの縮退がTc以下でとけていることから、強誘電性相転移がTcでまさに起こっていることを実証した。 (2)Eu対称性の光学フォノンがソフト化(Tcに向かって周波数が減少する現象)していることを初めて見いだした。このことから、このフォノンがSTO18の強誘電性相転移を引き起こすと結論づけた。 (3)STO18-53とSTO18-86との違いはEu対称性の光学フォノンの周波数にあり、Tcでそれぞれ約100cm^<-1>と約200cm^<-1>と決定した。このフォノンが強誘電性相転移を引き起こすとすると、Lyddane-Sachs-Teller関係からSTO18-53の静的誘電率がSTO18-86のものに比べて大きくなければならない。実際、静的誘電率の測定は、それを支持している。
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