量子ゆらぎ(零点振動)のため、OK近傍でも電気分極が揃った状態(強誘電相)を実現できず、電気分極がバラバラな状態(常誘電相)のままでいる量子常誘電体と呼ばれる物質がある。典型的な例がSrTiO_3である。最近SrTi^<16>O_3(STO16)の酸素^<16>Oをその同位体^<18>Oで置換したSrTi^<18>O_3(STO18)が温度T_c=22K以下で強誘電性を示すことが報告された。本研究の目的は、光散乱法を用いた音響・光学モードの直接測定により、STO18における強誘電性の動的発現機構を解明することにある。 光散乱、電場誘起光散乱、ハイパーラマン散乱、パルス誘導ラマン散乱、誘電率測定を行った結果、STO18の構造相転移機構について、次のような結論を得た。STO18の強誘電性の発現は、強誘電性相転移の結果である。この相転移は、基本的にSlater型の強誘電性E_u、ソフトモードの凍結によって引き起こされる。量子常誘電体STO16との比較において、両者で電気双極子・双極子相互作用はほぼ等しい。ところが、STO18ではE_uソフトモードの換算質量が大きいことが原因で量子揺らぎが抑制される結果、このモードが凍結可能となり、強誘電相(点群C_<2v>)が出現する。相転移型は変位型であるが、完全なものではない(相転移温度T_cでソフトモード周波数が約200cm^<-1>で0にはならない)。T_c以下では、E_uソフトモードは結晶の対称性の低下により縮退がとけてE_u1(自発分極に水平な分極揺らぎ)とE_u2(分極揺らぎと垂直な分極揺らぎ)とに分離する。
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