STMでイメージされる固体表面の個々の吸着種の同定をそこからのSTM発光スペクトルを解析することにより行うことが本研究の目的である。この目的を達成するために以下の2点を実施する。(1)既存のSTM発光分光装置に探針位置固定機構を導入し、高い位置分解能を維持したまま長時間の露光計測を可能にする。この結果、吸着種からの微弱な発光の計測が原子レベルの位置分解能で可能になる。(2)種々の基板-吸着種(原子・分子)の組み合わせに対してSTM発光スペクトル計測し、吸着種のどのような物性がSTM発光スペクトルに反映されるかを明らかにする。 (1)に関しては、STMコントローラー等を購入し、探針固定機構をSTMシステムに組み込んだ。現在、最終調整を行っている。 (2)に関しては、Ni(110)上に吸着した水素原子(Ni(110)-H)とHOPG上に吸着したローダミン6G分子(HOPG-R6G)からの発光を計測した。Ni(110)-Hに関しては、水素の振動エネルギーがSTM発光スペクトルの解析から決定できることがわかった。すなわち、STM発光により個々の吸着種の振動分光が可能になることがわかった。HOPG-R6Gに関しては、孤立したR6G分子のトンネル電子励起発光スペクトルの計測に成功した。計測されたスペクトルがフォトルミネッセンス・スペクトルとよい一致を示したことから、非弾性トンネル過程によりR6GのHOMO準位にある電子がLUMO準位に励起され、それがHOMO準位に遷移する際に発光していることが結論される。
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