本研究の結果、走査型トンネル顕微鏡発光分光により、個々の固体表面吸着種の同定が可能になった。走査型トンネル顕微鏡は原子位置分解能で固体表面上にあるナノ構造を画像化するための優れた手法であることはよく認識されている。固体表面上に吸着した個々の原子や分子が走査型トンネル顕微鏡により画像化されるが、この画像だけからこれらの原子や分子を同定することはできない。個々の吸着種を同定するための手法が表面科学やナノテクノロジーの種々の分野で強く求められている。走査型トンネル顕微鏡の探針先端から放出されるトンネル電子ビームにより発光を励起することができる(走査型トンネル顕微鏡発光)。この電子ビームはその断面積が原子サイズ程度まで収束されているので、対応するサイズの領域を選択的に励起することができる。従って、探針を吸着種上に固定すると走査型トンネル顕微鏡発光はその吸着種の物性を反映するようになる。このプロジェクトの目的は走査型トンネル顕微鏡発光スペクトルの解析から画像化された個々の吸着種が同定できることを実証することにあった。この目的のために、Cu(110)、Ni(110)、Ag(110)上の酸素原子、Ni(110)上の水素原子、Cu(110)、Pt(110)、Ni(110)上の一酸化炭素分子、グラファイト上のローダミン6G分子からの走査型トンネル顕微鏡発光スペクトルを計測した。その結果、これらの吸着種の発光スペクトルは対応する基板のスペクトルと異なっていることを見いだした。この結果は走査型トンネル顕微鏡発光分光による個々の吸着種の同定が可能になることを明確に示す。
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