研究概要 |
吉澤(代表者)は、フェムト秒分光装置に用いる励起光パルスの波長域をさらに拡大して近赤外域の励起光を得た。この励起光を用いてカロテノイドの非線形光学効果を測定し、3準位系の非線形光学過程で説明した。この結果、これまで短寿命の励起状態として報告されていた信号が非線形光学過程によるものであることが明らかとなり、カロテノイドの初期緩和過程で生じていた解釈の矛盾が解消された。光反応中心複合体は800nm付近に吸収をもっているため、従来のフェムト秒ラマン分光のラマン励起光を用いることができない。このため、新たにラマン励起光の光源を開発して試験的な測定を行なった。橋本(分担者)は、種々のカロテノイドおよび光反応中心複合体(RC)を調整して代表者に供給するとともに、これらの基本的光学特性を調べた。長さの異なるカロテノイド同族体については、電場変調分光から励起状態のもつ対称性やエネルギー準位を明らかにした。さらに、種々のアナログカロテノイドを再構築した人工のRCを創成し,これらの特性を明らかにした。 本研究で得られた実験結果から、カロテノイド単体における光励起後の緩和過程を振動状態を含めて明らかにした。カロテノイドの励起状態には長い寿命をもつ振動モードが存在し、この振動が光合成系のエネルギー伝達において重要な役割をもつと推測された。本研究では、エネルギー伝達過程の完全な解明に向けて今後行なうべき道筋を示し、必要な研究方法の試験的な実験に成功した。
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