研究概要 |
1.典型的な1次元量子スピン系であるSr_2CuO_3とSrCuO_2およびCuサイトに不純物Pd、ZnあるいはNiを部分置換したSr_2cu_<1-x>Pd_xO_3、SrCu_<1-x>Zn_xO_2、SrCu_<1-x>Ni_xO_2について、Traveling-solvent Floating-zone(TSFZ)法によって大型単結晶を育成し、熱伝導を測定した。その結果、Sr_2CuO_3とSrCuO_2のいずれにおいても60K付近に観測されていた熱伝導の増大は不純物置換で大きく抑制され、60K付近の熱伝導の増大にはスピンが大きく寄与していることが分かった。また、スピンの平均自由行程を見積もると、不純物間の平均距離と同程度であることが分かり、熱を運ぶスピンの伝導はバリスティックであるという理論的予測を支持する結果を得た。 2.2次元スピンギャップ系であるSrCu_2(BO_3)_2の10K以下のスピンギャップ状態における熱伝導度の増大は、フォノンによる熱伝導の寄与であることは分かっていたが、今回、SrCu_<2-x>Zn_x(BO_3)_2(X=0,0.02)における磁場中での熱伝導測定により、磁場が強くなるとスピンギャップが壊れ、スピンによる熱伝導が大きく現れてくることが分かった。 3.昨年度の研究により、高温超伝導体La_<2-x>Sr_xCuO_4において注目されている磁場誘起磁気秩序の起源は電荷とスピンの動的なストライプ秩序が磁場の印加で導入された磁束コアによってピン止めされて静的磁気秩序として安定化されたものである可能性が高いと結論していたが、今年度はそれを確証するために、La_<1.87>Sr_<0.13>Cu_<1-y>M_yO_4(M=Zn,Ni;y=0,0.01,0.03,0.10)およびLa_<1.90>Ba_<0.10>CuO_4の大型単結晶を育成し、磁場中で熱伝導を測定した。その結果、ゼロ磁場で既に静的磁気秩序が安定化されている試料や、ZnやNi置換によって超伝導が壊れている試料においては磁場による熱伝導の変化は観測されず、昨年度の結論が正しいことが証明された。
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