本研究は理想的な2次元超流動体であるHeの単原子膜を、3次元的に繋がりのある、孔の大きさの揃った多孔質基盤上に、形成し、出現する超流動の特性を計測し、超流動の基本問題を解明する基礎物理学的研究である。具体的には当初次の3つの目的が立てられ、これを実現すべく様々な方策が検討された。 I.この多孔質ガラス中に形成されるヘリウム薄膜の系での渦糸の渦芯特性や、動的性質など特性の解明(主に捻り振り子法による研究によって明らかにする)。 II.渦糸格子の生成と融解現象の基礎研究(回転クライオスタットを用いた捻り振子実験)。 III.超流動流れと渦糸の相互作用の定量的研究とこれを用いた渦状態の解明(回転下の超流動流れ実験で、渦格子状態と乱流転移研究)。 I.及びII.捻り振り子法を駆使した研究により、以前に解明した2次元渦芯の特性に対し、この系独特の3次元渦の特性が定量的に解析され、渦芯の大きさが多孔質基盤の孔径によって規定されているらしい事が見出された。また、回転下の捻り振り子実験のエネルギー散逸ピークの解析から回転によって確かに孔渦が励起されこれによって新たなエネルギー散逸ピークが生じる事が解明された。これらの情報は、新たな超流動等量子渦系の探査に役立てられる事であろう。 III.本研究によって薄膜超流動実験に欠かせない連続冷凍装置の導入が行われその性能試験が行われた。今後これを用いた超流動流れ実験と回転とを組み合わせた研究活動によって量子渦の秩序状態と乱れのある系との定量的研究が進むと期待される。
|