本研究は、液体ヘリウムの薄膜上に2次元電子系を形成し、そこで期待される新しい量子固体・液体状態の探索を行うものである。高誘電率でかつ表面が平坦な固体(絶縁体)基盤に超流動ヘリウム薄膜を乗せ、その表面に2次元電子系をつくると、誘電体基盤の分極により表面電子間のクーロン相互作用が遮蔽され、幅広い密度・温度領域で量子多体効果(量子ウィグナー結晶化、フェルミ縮退)の発現が理論的に予想されている。これまで多くの実験が試みられたが、量子効果の観測には至らなかった。これは基盤表面の粗さによる電子移動度の低下と、基盤の誘電率が低かったことが要因である。本研究はこれら過去の研究での困難を一挙に克服して、量子効果の観測を試みる。 科学研究費が交付される2年間に、ヘリウム薄膜に2次元電子系を広範な密度で安定に形成するためのノウハウを確立し、10mKまでの極低温域で交流伝導度の測定を行い、量子効果の探索を進める。 平成14年度は、交流伝導度測定装置とヘリウム4クライオスタットの準備を完了し、予備的測定を開始した。誘電体基盤として高い表面平坦度を有するサファイア(比誘電率ε〜9)とチタン酸ストロンチウム(ε〜2_x10^4)を入手し、交流伝導度測定用電極を作成した。基盤上のヘリウム膜厚を制御する新しい方法として、ピエゾ素子のスティックスリップ運動を利用したモーターでバルク液面の高さを制御する実験セルを製作した。現在、全測定系の動作テスト・予備実験を行っており、平成15年度より本格的な伝導度測定を開始する。
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