本研究は、液体ヘリウムの薄膜上に2次元電子系を形成し、そこで期待される新しい量子固体・液体状態の探索を行うものである。高誘電率でかつ表面が平坦な固体(絶縁体)基盤に超流動ヘリウム薄膜を乗せ、その表面に2次元電子系をつくると、誘電体基盤の分極により表面電子間のクーロン相互作用が遮蔽され、幅広い密度・温度領域で量子多体効果(量子ウィグナー結晶化、フェルミ縮退)の発現が理論的に予想されている。本研究では過去の研究で明らかになった問題点を克服し、量子効果の観測を試みた。本研究の成果を以下に要約する。 1.交流伝導度測定装置、ヘリウム4クライオスタット、及び希釈冷凍機を製作し、薄膜表面電子の伝導度測定を行った。任意のヘリウム膜厚での測定を実現するため、ピエゾモーターでバルク液面の高さを制御する新しいタイプの実験セルを開発した。誘電体基盤として高い表面平坦度を有するサファイア(比誘電率ε〜9)を用いた。ヘリウム薄膜上で低密度の電子系が安定に形成され、伝導度が測定可能なことを確認した。 2.電子と液体ヘリウムの表面励起(リプロン)の相互作用を制御するため、ヘリウム3-4混合液表面上に2次元電子を束縛させ、30mKの極低温域まで伝導度の測定を試みたところ、全く予想外の共鳴現象を観測した。この共鳴について詳細な測定と解析を進め、ヘリウム3の混合により表面電子が空間的に不均一になったことによって起こるエッジマグネトプラズマ共鳴であるとの結論を得た。 3.液体ヘリウム3表面上のウィグナー結晶で観測されていた特異な非線形伝導が、フェルミ液体ヘリウム3に特有の強い減衰効果に起因することを理論的に明らかにした。この成果は、超低温域でのヘリウム(^3He)薄膜上電子の安定性と伝導度の測定可能性について新たな知見を与えるものである。
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