レーザーによって物体をトラップした上で非平衡開放場を構築し、様々な非線形ダイナミクスを発現させることを目的として研究を行っている。本年度に得られた成果は以下の通りである。 (1)水-有機物質混合溶液中に集光レーザーを照射することによって、焦点においてのみ、ミクロスケールの相分離挙動が誘起することを示した。この系においては、相分離の生じるレーザー出力に閾値が存在し、分離後の有機物質をトラップして搬送させることなども可能である。 (2)密閉した微小空間中において、集光したレーザーを気水界面に照射して水相を局所的に加熱することで、揮発した水蒸気が固体基板上に凝集して微小液滴を形成・成長し、元のバルク水相に接触するとバルク相に吸収されることを繰り返す振動挙動を見出した。これは、ミクロスケールで観察される一種の蒸気エンジンであり、定常的なレーザー照射によって発現する非線形振動現象の一つである。 (3)集光したレーザー光線を焦点面上において高速走査することにより、微小ポリスチレンビーズの運動を、その走査軌道上に拘束することができる。この手法によって、ビーズの一次元非対称ポテンシャル場上の拡散運動を解析した結果、方向性のないエネルギー入力によって、方向性のある運動を取り出せることや、また、そのような非平衡状態においてEinsteinの関係が著しく破れていることなどを実験的に見出した。 (4)気相中で微小液滴をレーザーによってトラップした。この時のトラップ効率を従来行われている系と比較すると、一桁大きくなることを示した。気相中で液滴を保持できることから、従来の浮遊技術とは異なる方法で無容器化学反応系の構築が可能となることを示す結果である。 (5)細胞モデルとしてのリン脂質小胞(リポソーム)内に、レーザーでトラップしたDNA分子を導入することが可能であることを示した。これは、新しい遺伝子導入技術の開発に繋がるものである。
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