非平衡開放系の物理を理解することは、宇宙から生物にいたるまで、さまざまなスケールの物理を考える際に重要な課題である。そこで、われわれはマイクロメートル〜ミリメートルのスケールの定常的な非平衡開放条件を集光レーザー場を用いて形成することを目的として研究を進めてきた。すなわち、集光レーザーによって物体をトラップしながら、光子としてのエネルギー注入による非平衡開放条件下で引き起こされる動的な非線形現象についての実験をデザインし、非平衡開放系に関する実験モデル系の確立、理論的基盤の構築を目指した。その結果、次に示すような重要な成果を得ることができた。 ・定常的な集光レーザー場中における高分子・脂質チューブの周期的構造変化 ・レーザーにより誘起されるマイクロメートルスケールの相分離現象 ・レーザーエネルギー注入による液滴の振動・消滅リズム ・レーザー照射位置の制御による液滴の自発的運動の制御 また、レーザーによる非平衡系での現象と対比させて考えるため、化学エネルギーの勾配により駆動される自発運動についても研究を行い、次の成果をあげた。 ・界面活性剤水溶液中における油滴のガラス基板上自発的運動 ・水-アルコール系におけるアルコール液滴の自発的運動 ・BZ反応液滴の自発的運動 これらは光エネルギー・化学エネルギーを注入源とする非平衡開放場であると捉えることにより、非線形微分方程式で記述可能であることを示した。このような定式化により、実験系の制御やデザインができるようになってきている。理論的考察を通じて、非平衡開放条件下、自発的にリズムやパターンの生成する現象についての、新奇なシナリオを構築することに成功した。
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