【緒言】溶液中の屈曲性高分子鎖は伸長流動場では、コイル・ストレッチ転移(CST)を起こすことが知られている。従来、CSTは伸長流動場下にある溶液の流動複屈折をモニターすることによって観測されてきた。特に、CSTの臨界歪速度ε^^・_Cは流動複屈折の歪速度依存曲線から決定されている。CST自体は個々のポリマーの伸長によるものであるが、流動複屈折は、多くのポリマーの伸長の平均を観測している。実験的に決定されたCSTの臨界歪速度ε^^・_Cと、個々のポリマーの伸長がどのように対応するかは必ずしも明らかではない。臨界歪速度ε^^・_C付近で、個々のポリマーに何が起きているかを調べるために、本研究では、従来の巨視的観測(伸長流動複屈折)と個々の分子の伸長挙動の比較を試みた。 【実験】個々の分子の伸長挙動を観測するために、ポリマーとしてDNA分子を用い、蛍光染色して蛍光顕微鏡観察を行った。DNA分子はサケ白子由来のものである。顕微鏡下での伸長流動発生装置として、シリコン・ウエファーをフォト・エッチングしたマイクロ・クロススロット(MCS)を用いた。シリンジ・ポンプで試料溶液を吸引することでMCS中央部に伸長流動場を発生させた。また、伸長流動複屈折観測のために流動発生装置として、four-roller millを用いた。 【結果と考察】MCS中において、歪速度ε^^・〓1.5[sec^<-1>]付近で多くのDNA分子がランダムコイル状態からストレッチ状態へと伸長が起こることが観測できた。一方、four-roller millによる複屈折応答を測定した結果、歪速度ε^^・〓5[sec^<-1>]近傍で分子伸長が起こっていると考えられる。この巨視的な測定と微視的な測定における臨界歪速度ε^^・_Cの違いは、微視的測定では直接流動による分子変形を観測しているのに対し、巨視的測定では、それに伴う試料溶液の屈折率異方性を観測していることによると考えられる。
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