本研究では、生命現象の本質と考えられる基本的な化学反応ダイナミクス(自己複製反応、遺伝子発現ネットワークなど)を細胞中または基板上で再構成し、一分子計測の技術を用いて可視化と定量測定を行い、定量的予測に耐える理論モデルの構築に繋げ、新しい方法論の確立を目指すことを目的として2年間にわたって行われた。第一にDNAの凝縮転移に着目し、溶液のイオン濃度を制御できる流路を作製し、レーザーピンセットを用いた1分子計測により凝縮状態のDNAを機械的に引き伸ばすことにより張力特性を測ることに成功した。その結果、プラトー応答やスティック・レリース応答を確認した。これは、凝縮したグロビュール状態と引き伸ばされたランダムコイル状態が共存していることを示している。さらに高濃度のスペルミジンの存在下では、再び凝縮状態が解けリエントラント転移を起こすことを見出した。これらの実験結果の1部を理論モデルで説明できることを明らかにした。これらの結果は発表済みである。第二に、速度を自在に変更できるAFM装置を自作し、蛋白質アンフォールディングのダイナミクスの引っ張り速度依存性を測定することに成功した。その成果は投稿準備中である。 第三に、細胞内の遺伝子ネットワークにおける基本的なモチーフの動的特性を明らかにするため、ポジティブフィードバツク系を人工的に再構成し大腸菌に導入し、GFP(緑色蛍光蛋白)を用いて発現量を時々刻々モニターする実験を実現した。その結果、外液のIPTG濃度を変化させるとGFP量の発現はヒステリシス特性を示し、さらにステップ入力に対する動的応答としてはフィードバックのない場合に比べて明らかな時間遅れが生じることを始めて見出した。この時間遅れは、ネットワークの力学系モデルによる予測と良く一致することも確認された。この結果については現在投稿準備中である。他の研究項目については研究継続中である。
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