研究概要 |
本研究は,冷熱浴が物質進化に及ぼす影響を実験に訴えて明らかにすることを目的とした.対象とする冷熱浴は海底熱水噴出孔の周りに広がる冷海水であり,考察する物質進化過程は熱水塊からエネルギーを獲得することによって進行する分子重合過程である.そのため,海底熱水噴出孔を模した進化フローリアクターを実験室内に建設した.特に具体的な対象として選んだのはオリゴペプチドとオリゴヌクレオチドがお互いに相互触媒となる条件の探索である. 本年度はその準備段階としてヌクレオシド(例,アデノシン)およびヌクレオチド(例:AMP)が進化フローリアクター内でリン酸化される条件の探索に的を絞った.リン酸源にはトリメタリン酸を用いた.トリメタリン酸は原始地球上において火山活動を想定するならば,容易に生成可能である.AMPを出発物質に選び,トリメタリン酸をリン酸源にしたとき,それからADP, ATPの生成を確認した.そのときの進化フローリアクターの主たる運転条件は,高温部100℃,低温部0℃,圧力15Mpa,流速8ml/minであった.反応溶液の全量は300mlに設定した.生成量の確認はリアクターの運転を開始してから180分後に行った.高温部の温度を100℃以上に設定すると加水分解が進行し,生成量の減少が認められた.一方,高温部を100℃以下に設定するとADP, ATPの生成そのものが抑制されることが判明した. AMPのリン酸化が進化フローリアクター内で進行することから,海底熱水噴出孔の近傍がヌクレオシド,ヌクレオチドのリン酸化の環境に適していることがここに確認された.われわれはこれまで海底熱水環境がアミノ酸分子からのオリゴペプチドの生成に適した環境であることを認め,それを公表してきた.本年度の成果は,海底熱水環境がオリゴペプチド,オリゴヌクレオチド生成に対して,互いに他の生成を助長する,とした所期の研究目的を肯定,補強する材料を提供する.
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