研究概要 |
本研究では深部低周波地震の発生メカニズムを下部地殻・モホ面付近における温度・圧力条件下での物理過程として明らかにすることを目指している. 今年度は,深部低周波地震と同様に地下深部で発生する微動で流体がその発生に関与している考えられている深部低周波微動に注目して,それら震源における波動励起の特性を,本研究で開発した「平均散逸スペクトル」という解析手法で解明した.まず,「平均散逸スペクトル」がノイズレベルの高いデータに対し極めて効果的に波動特性を導出できる手法であることを,シミュレーションにより示した.深部低周波微動は極めて微弱なシグナルであるためS/N比の悪いが,この手法を使うことにより,初めてそのスペクトル構造を明らかにすることが出来た.深部低周波微動の対象とした微動は2003年と2002年に四国西部で発生した微動で,その結果,1Hz〜5Hzの間に0.5Hz間隔のスペクトルのピークを持つ構造が明らかになった.これらのスペクトル構造は単純な共鳴のモデルでは説明することが困難なものである. さらに,非線型定常・因果時系列解析を深部低周波微動と深部低周波地震に適用することで,両者の波動特性の違いを明らかにし,これらの特性と説明するためには,流体の移動に伴う自励振動が有力な物理過程であることを明らかにした. また,富士山の深部で発生する深部低周波地震の震源と周辺の速度構造をインバージョン解析により調べ,P波速度の低速度領域の上端付近に深部低周波地震が発生していることが明らかになった.これは,部分溶融した流体の上昇が深部低周波地震の発生と関連している可能性を示唆する. 以上の解析結果より,深部低周波地震や深部低周波微動の発生メカニズムは,流体の共鳴様なタイプのものよりは,流体移動に伴う自励振動タイプのものが有力であることが判明した.
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