地球のマントルは化学組成の異なるいくつかの部分から成り立っている.それらが対流運動によってどのように相互作用をしていくかがマントルダイナミックスの本質であると考えられている.本研究で目指すものは、このような系をシミュレイトした流体実験をとおして多層対流系の進化・マントルの構造進化の理解である. 14年度は多層対流系の実験を行うための流体計測系の整備を主として行った.流体計測系は対流運堰場計測系と対流温度場計測系からなる.運堰場計測はトレーサー粒子を用いたPIV(Particle Image Velocimetry)法、PTV(Particle Tracking Velocimetry)法であり、ライトシートを作るレーザーと高解像度カメラよりなっている.本実験で対象としている速度場は非常にゆっくりとしたもの(数ミリ/秒)であるために、安定性の高いCWレーザーを選択した.温度場計測はローダミンなど蛍光剤をもちいたLIF(Laser Induced Fluorescence)法、感温液晶法を採用した.高分解能CCDカメラを用いることにより微弱な蛍光強度を平均化作業なしで直接計測が可能になり、運堰場と温度場の同時計測が可能となった.予備的な実験の過程で、以下のような問題点が明らかになり、解決された. 1)PIV法とLIF法の干渉妨害効果:PIVのためのトレーサー粒子により散乱されたレーザー光が周辺部分を照射し、レーザーシート領域のLIF計測を困難にさせる.対流により作り出されたプルームの温度構造を明らかにすることを目指しているが、軸対称性のプルーム構造解析のためには散乱光の存在は障害となる.一方PIVの精度を上げるためには散乱強度の高い粒子が多数必要とされるために、両者を満足させる条件を実験的に求めた.具体的にはトレーサー粒子の数密度、PIV用カメラの感度、レーザー光強度の関数として実験を行い、両者の干渉妨害効果の最も少ない最適な条件を求めた. 2)ローダミン発光強度の増粘剤による変化:実験では液体の粘性をコントロールするためにメチルセルロースなどの増粘剤を用いているが、増粘剤の種類によって発光強度が変動することが明らかになった.原因は不明であるが、個別にキャリブレーションを行うことでこの影響を回避した. これらの成果によって0.1度精度での温度場と速度場の同時計測が可能となり、基本的な計測系のセットアップが整った.これらの成果は2003年4月のEGS/AGU/EUG会議において発表予定である.
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