研究概要 |
断層が最終的な動的破壊(地震)に至る過程で、準静的なすべりが先行することは実験的にも,また様々なモデルによる理論からも、さらに摩擦構成則に基づいたモデル計算からも次第に明らかになりつつある。この前兆的なすべりを何らかの方法で検出できれば,地震予知への一つの手がかりとなることが期待される。本研究の目的は、破砕物質を挟む断層を対象にして、能動的に透過弾性波を断層に照射し、透過波形の変化から断層のすべり予測の可能性を探ることである。さらにこの波動の変化が,断層内物質のどのような状態変化によってもたらされるかを解明することである。 まず実験によって、断層にせん断応力を徐々に加え、最終的にスティックスリップが発生すること、また、この最終破断に先立って、明瞭な前兆的すべりと、ガウジ層の膨張が必ず発生することが確認された。前兆的なすべりとガウジ層の膨張の開始に伴い、透過波動の振幅は著しく減少することが確認された。 このメカニズムを明らかにするべく、離散要素法によるシミュレーションを行った。シミュレーションは、驚くべき正確さをもって実験を再現した。すなわち、前兆的なすべりとガウジ層の膨張のあと、スティックスリップが発生した。載荷の各段階で、ガウジ層内部の応力鎖の変化を観察すると、以下のメカニズムが明らかとなった。1.せん断力をかける前の段階では、応力鎖はガウジ層内部で一様に分布している。2.せん断力が増加するにつれ、選択的に一部の応力鎖のみが選択的に成長し(一種の自己組織化臨界現象)、太い柱を形成する。3.さらに力が増すと、この柱が回転して前兆的なすべりが発生すると同時に、ガウジ層の膨張が起きる。この内部構造の変化が、波動透過率を著しく減少させる。4.このあと柱が破壊し、スティックスリップが発生する。
|