研究概要 |
本年度は,三波川変成帯低変成度部とその南側に分布する秩父北帯の野外地質調査,および採集岩石試料中の微細構造解析と白雲母の化学組成解析を行った。以下に成果を箇条書きに述べる。 (1)三波川変成帯と秩父北帯は,これまで白亜紀に三波川変成作用をともに被ったと考えられて来たが,2つが別個のテレーンであるのかどうかは必ずしも明瞭ではなかった。今回の調査で,両帯は全く別個の岩相および構造で特徴付けられる,異なるテレーンであることが明らかとなった。 (2)変成温度・圧力条件を見積もるため,三波川帯南縁部-秩父北帯を横切る南北13kmのルートにおいて泥質片岩を系統的に採取し,主要構成鉱物である白雲母(フェンジャイト)の化学組成をEPMAで測定した。また,変成温度条件を明らかにするため,石墨の底面間隔,d_<002>(石墨化度)をX線回折装置を用いて測定した。その結果,d_<002>は調査地域で大きく変化しない(3.5-3.6オングストローム)一方,フェンジャイトのSi値は,三波川帯南縁部で3.30-3.38,三波川帯と接する厚さ4kmの秩父北帯北縁部で3.33-3.43,さらにその南側の秩父北帯主体部で3.23-3.28と著しく変化していることが明らかとなった。これらのデータに基づき,変成温度条件は全域にわたって300-350℃程度,圧力条件は,三波川帯南縁部,秩父北帯北縁部および主体部で,それぞれ6,8および4kbと見積もられた。したがって,両帯の境界部は,最高圧力を示す秩父北帯北縁部がくさび状に挟まれている構造で特徴付けられ,今後,この高圧変成岩体の上昇過程・機構が本研究の重要なテーマとなった。
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