研究課題
日本周辺の貝形虫の進化に関する多くの成果をあげ、その成果発表を成し遂げることができた。ことに淡水貝形虫Darwinulidae科のオスを世界ではじめて屋久島に発見したことは特筆される。Darwinulidae科貝形虫は古生代に現れ、今から3億6千万年前から2億年前には何百種という種がオス・メスによる有性生殖を行っていたと考えられている(オスは細長く伸びた背甲、メスは卵を抱えるため、横に張り出した背甲をもつ)。ところがこのグループは2億年前になると突然、メスと思われる背甲をもつ個体だけが産するようになり、現在確認されている約30種も全くメスであった。従って、従来の研究者は、Darwinulidae貝形虫は2億年前に一斉に有性生殖を捨て去り、代りにメスのクローニングによる繁殖様式を取り入れたのだと解釈してきた。しかし、一方で理論生物学者は、長期にわたって無性生殖する生物は環境変化に弱く絶滅をまぬがれないため、特別に有利な突然変異が起きるしくみでも無い限り、Darwinulidae科貝形虫のように長期にわたって繁栄する生物の存在はあり得ないと指摘していた。本研究では、屋久島の湧き水場より淡水貝形虫を採取し、種の同定を行った。その結果、新種Vestalenula corneliaを記載するとともに、数百個体のメスに加え、3個体のオスを確認した。オスは雄性生殖器やフック型になった第五付属肢をもつ。さらに興味深い事実は、オスの背甲の形態・サイズともにメスのA-1幼体に極めて類似している点である。即ち、2億年から現在まで、Darwinulidae貝形虫にオスがみつからなかったのは、いなくなったからではなく、小さくなってメスの幼体に似てしまったため、見落としていた可能性が高い。これらの成果は、Darwinulidae科貝形虫の世界最古としての無性生殖生物の地位を根本的に問い直すと共に、Darwinulidae科貝形虫以外の長期的な無性生物の存在そのものについても見直しをせまるものといえる。
すべて 2005
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