植物プランクトンの光合成に起源を持ち、数ヶ月から1年間の寿命を持つ準難分解性溶存態有機物について、自然微生物群集を用いた実験的解析を実施した。研究対象海域は西部北太平洋域とし、東京大学海洋研究所研究船「白鳳丸」のKH-03-2次航海の際に^<13>C取り込み実験を行った。また、昨年度から開始した南極海の試料についても、引き続き分解実験を継続し、準難分解性溶存態有機物について量的・質的解析を行った。 その結果、以下の事が明らかとなった。 1、光合成と並行して生産される溶存態有機物量は、海域を問わず10%以下であり、代謝が活発な植物プランクトンから直接生産される溶存態有機物は微量であった。 2、生産物を含む微生物群集が暗所に移されると、全生産量に対する溶存態画分の割合は、急速に増大した。また、溶存態有機物の分子量組成は、低分子量有機物へ急速に移行した。これは、海洋の溶存態有機物の中で、低分子量有機物が安定性を持つと言う従来の知見と良く一致した。 3、明期における有機物の生産量に対して、180日後まで分解されずに残存する生産物の割合は、生物現存量の少ない海域ほど、高い傾向が認められた。生物現存量の少ない貧栄養海域では、安定性の低い貯蔵性グルカンの生産が少ないために、この様な差が生じたと考えられる。 4、有機物のサイズにより炭水化物の単糖類組成が特徴的であったため、植物プランクトン生産物の続成過程は、大きいサイズの有機物が分断されて小さいサイズに移行するといった、単純な過程では進行しないことが示唆された。
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