研究課題
基盤研究(B)
本研究計画では、K/T巨大衝突蒸気雲中での硫黄酸化物の酸化還元反応プロセスの解明を目的とした実験と理論計算を行った。実験では、Anhydrite(硬石膏、CaSO4)に高出力パルスレーザーを照射することにより、高温高圧の蒸気雲を発生させる。この模擬衝突蒸気雲の化学組成を本計画で導入した四重極質量分析器を用いて測定し、蒸気雲のサイズ・初期温度圧力状態に対するSO2/SO3比の経験的なスケーリング則を求めた。さらに、実験の精度向上と実験条件のダイナミックレンジの拡大を目指した改良を行った。その第一は、真空チェンバーに自動ステージを導入して照射一回ごとに試料の新鮮な面が照射されるシステムを作った。これにより、SO_2/SO_3比の測定誤差を従来の半分程度にまで小さくすることに成功した。さらに、東京大学に新たに導入された大出力パルスレーザー(15J/パルス)を用いてレーザー照射実験を行った。これにより、これまでより約2桁広い実験条件をカバーするSO_3/SO_2比のスケーリング則を決定することが可能となった。一方理論計算からは、今までとは全く違う筋書きに沿った硫酸エアロゾルによる日射遮蔽・気候変動のメカニズムが存在し、それが従来の説よりも継続時間がはるかに長い気候変動を起こした可能性があることがわかった。従来は、衝突地点の硫酸塩岩が蒸発すると硫黄酸化物が生成すると考えられてきた。しかし、実際には主に硫酸塩岩と炭酸塩岩が混合した堆積物として存在しており、衝突蒸気雲内でも硫黄と炭素が結合して硫黄酸化物以外の硫黄を含むガスも放出された可能性が高い。申請者が簡単なモデル計算を行った結果、硫黄と炭素の化合物が放出された場合には、硫黄酸化物の場合よりも圧倒的に長い硫酸エアロゾルによる衝突の冬の継続時間が期待できることがわかった。
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