研究概要 |
地球上での生命の誕生に先駆け,生体関連有機物が生成した場として地球圏外環境が注目されている。本研究では,星間空間での有機物の生成,変成(進化),地球への搬入の各ステップを一連の過程としてとらえ実験を行うことにより,地球外有機物の生命の起源での役割を評価することを目的とした。 1.有機物の生成 星間塵中に存在するメタノール・アンモニア・水の混合物を液体窒素温度で凍結し,重水素ランプからの紫外線,もしくは,Co-60からのγ線を照射した。この生成物を酸加水分解後,HPLCにより分析したところ、種々のアミノ酸の生成が確認された。そのエネルギー収率は,同様な組成の混合物を気相もしくは液相で照射した場合とほぼ等しかった。このことは,星間塵のような低温固相環境でも,適当なエネルギーがあれば生体有機物が十分に生成可能であることを示唆する。また,同様な出発材料からの核酸塩基の生成も確認された。 2.有機物の変成と光学活性の創生 遊離アミノ酸および1.の実験で生成した複雑有機物にγ線照射を行ったところ,複雑有機物の方が安定であることがわかった。また,この複雑有機物にシンクロトロンからの右もしくは左円偏光を照射した後,加水分解した場合,一方の対掌体が他方より有意に多く生成した。またSr-90,Y-90からのβ線を照射した場合にはL-アラニンが優位に生成した。これらの結果は、生体有機物の光学活性が地球外に起因することを強く示唆する。 3.レールガン衝撃による有機物の生成と変成 グリシン水溶液にレールガンにより衝撃を与えた場合,グリシン重合物の生成が,また,メタノール・アンモニア・水の混合物に衝撃を与えた場合にはアミノ酸前駆体の生成が確認された。このことは,彗星などの衝突によっても地球外有機物の一部がこわされずに地球へもたらされることや,新たな有機物の生成の可能性を示唆する。
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