研究概要 |
本年度は、以下の2つの研究テーマを実施した。これらの研究は、本研究課題の最終目標であるDirac型の電子相関理論の応用面を拡張するための試験的研究である。以下の研究成果から、本研究課題の重要性が確認された。Dirac型の電子相関理論の開発は現在進行中である。 (1)重原子核の磁気遮蔽定数-電子相関と相対論効果 X(-)とXO_4(-), (X=F,Cl,Br,I)のX核磁気遮蔽定数を計算し、相対論的効果と電子相関の効果、および両者がカップリングした効果について研究した。方法はMP2-DK2である。この系では、相対論効果が重原子で大きくなり、主としてフェルミ接触項に寄与するのに対して、電子相関の効果は、むしろ、軽ハロゲン分子で大きく、主としてpara項に寄与する。この傾向は、以前に研究したPb化合物とは異なっている。両者がカップリングする効果はIO_4(-)では有意な変化をもたらす。 (2)Fe(III)-ポルフィリンの基底・励起状態と常磁性シフト Fe(III)-porphyrin-biscyanide(-)の電子状態をSAC-CI法で計算し、基底状態が2Egであることを確定した。この結果は実験と一致した。また、基底状態のごく近傍に2B2gが存在し、置換基によって基底状態が2Egから2B2gに入れ替わるという実験的示唆を強く支持した。2Eg状態のCN基C-13常磁性化学シフトは-2787ppmと計算され、実験値-2516ppmと比較しうる値を得た。励起状態も含めて、常磁性化学シフトの挙動がスピン伝達機構により合理的に説明できることを示した。
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