研究概要 |
周波数依存磁化率の計算プログラムを開発し、重原子を含む分子および開殻系分子における磁化率を計算し、その相対論効果を検討した。波動関数はgeneralized UHF法を採用し、ハミルトニアンには相対論的な2次Douglas-Kroll-Hess法を用いた。XH2(X=O,S,Se,Tb)の磁化率の反磁性項はスカラー相対論項に強く影響を受けた。周波数依存性はスピン依存相対論項に影響されることが示された。また、カルコゲン(S, Se, Te)化合物のCDスペクトルを計算し、実験スペクトルとの一致を確認して、ピーク位置の変化を相対論効果を含めて議論した。さらに、本研究プロジェクトの仕上げとして、4成分Dirac型ハミルトニアンと等価なハミルトニアンを与える無限次Foldy-Wouthuysen(IOFW)変換を利用した2成分相対論の計算プログラムを開発した。この理論は1電子系ではDirac理論と等価である。水素類似原子において4成分Dirac-Fock法と2成分IOFW法の計算結果を比較検討し、プログラムの計算精度を確認した。多電子系原子でのスピン-軌道相互作用の計算について、IOFW法は、最近頻繁に使用される2次・3次のDouglas-Kroll法よりも良好な結果を与えた。多原子分子の計算については厳密に比較するレファレンスが存在しないのだが、Dirac-Fock法と比べてほぼ等価な結果を与える。この結果は4成分Dirac法と等価な精度を保持して様々な量子化学計算(電子状態、分子構造最適化、分子物性)が展開できる可能性を示している。
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