本研究は、数個〜数十個程度の分子が集合した気相クラスターや複数個のアミノ残基から構成されるポリペプチドのように、自由空間中に孤立した少数の自由度を持つ分子系に関して、融解に代表される構造相転移を実験的に探求することを目指している。研究2年度である本年度は、構造転移に伴う構成分子の運動を逐次追跡するためのフェムト秒時間分解分光の開発を重点的に行った。測定の簡便性や多様な分子系へ適用可能であることを考慮して、蛍光検出one colorポンプ-プローブ計測法を採用した。現在、2つのフェムト秒パルスを共軸で照射する配置となっているため、そのままでは光電場の干渉効果が現れ、光路長の精密な制御や煩雑なスペクトルの解析が必要になる。そこで、核波束の時間発展のみを抽出するために、2つのパルス間の光位相をランダムに変調し、対応する蛍光信号の揺らぎを検出するCOIN法を適用した。実際の実験では、分光学的情報が完備しているヨウ素分子を取り上げた。光源は、既存のチタンサファイアレーザー励起パラメトリック増幅器を用いたが、ヨウ素分子のB-X遷移を観測するために和周波発生が可能なように改良した。500〜700fs周期の振動波束の回帰を明瞭に観測することができた。断熱冷却された孤立分子に対するCOIN測定は本研究が初めてであり、常温セル条件下と比較して顕著な違いを見出した。また、構造変化に対応した振動運動のエネルギー準位構造を明らかにするために、高感度かつ高分解能なスペクトル測定法の開発も進行中である。具体的には、連続発振の外部共振器半導体レーザーをシード光として、非線型結晶を用いてパラメトリック発振を行うシステムを構築している。現時点で、シード無しのパラメトリック発振で充分な出力を達成しており、単一モード発振を目指して光学系の精密な調整を行っている。
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