量子光によるデンドリマーの非線形光学効果に関する理論的研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14340184
• 研究種目: 基盤研究(B)
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 中野 雅由 大阪大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (80252568)
• キーワード: 量子光 / デンドリマー / エキシトンダイナミクス / エキシトン-フォノンカップリング / マスター方程式 / 緩和 / コヒーレント / スクイーズド

研究概要

1.1エキシトンモデルでの古典レーザー場によるエキシトン移動ダイナミクスの解明
2状態のユニット分子からなる分子集合体モデルにおいて、分子間相互作用として双極子-双極子相互作用を仮定し、エキシトン-フォノン相互作用を考慮したマスター方程式を導出した。デンドリティック構造を持つ系と通常の2次元格子構造を持つ系のエキシトンダイナミクスを実行し、デンドリマーにおける外縁部からコアへの高効率なエネルギー移動の原因が、(I)メタ接合部による相互作用の切断、(II)フラクタル構造、(III)メタ接合部での世代間のエキシトン分布の重なり、によることを明らかにした。対照系として考慮した2次元格子モデルでは、このような条件を満たさず、段階的なエキシトン移動は生じなかった。さらに、2状態ユニット分子種および分子間相互作用を変化させることで、このようなエキシトン移動の経路や速度をコントロールできる可能性を見出した。現在、このようなエキシトン移動の構造-特性相関をさらに明らかにするため、2エキシトンモデルによる考察を行っている。
2.分子状態モデルと相互作用する量子場のダイナミクス-緩和を考慮したマスター方程式の導出-
緩和がない場合の原子/分子状態、モデルと様々な量子統計性を持つ1フォトン場との量子ダイナミクスの手法は既に開発しているが、分子系の場合、様々な緩和効果を考慮する必要がある。本年度は、キャビティーロス(キャビテイー中のフォトン場の外部への漏れ)、分子系の振動等による純粋位相緩和、ポピュレーション緩和を考慮したマスター方程式を1モード量子場の場合を例に取り導出した。現在、簡単な2状態モデルとコヒーレント外場との相互作用系において各種緩和がダイナミクス(特に分子系の状態間コヒーレンシーやフォトン場の位相)に与える効果を調べている。キャビテイーロスは、非常に小さい緩和レートでも、分子系のポピュレーションの崩壊-復活現象のような量子論的な振る舞いを著しく減少させることがわかったが、一方、分子系の状態間のコヒーレンシーの程度を表す分子系の非対角密度の大きさの初期時間領域における増大には殆ど影響を与えないことも判明した。この初期時間領域における振る舞いは、光のシュレーディンガー猫状態の形成に使用されるものであり、それに対してキャビティー緩和の影響が少ないことは興味深い。一方、分子系の純粋位相緩和およびポピュレーション緩和は、予想通り著しく分子状態間コヒーレンシーを破壊することが判明した。現在、分子の状態間緩和レートおよび外場の量子統計性がこのような振る舞いに及ぼす効果をさらに検討している。

研究成果

• [文献書誌] M.Nakano: "Density analysis of imaginary part of γrelated to two-photon absorption"Chem. Phys. Lett.. 356. 462-468 (2002)
• [文献書誌] M.Nakano: "Quantum-phase dynamics of dimer systems interacting with a two-mode squeezed coherent field"J. Chem. Phys.. 116. 10069-10081 (2002)
• [文献書誌] H.Fujita: "A new strategy of enhancing two-photon absorption in conjugated molecules : Introduction of charged defects"Chem. Phys. Lett.. 358. 435-441 (2002)
• [文献書誌] M.Nakano: "Theoretical Study on Second Hyperpolarizabilities of Phenylacetylene Dendrimer : Toward an Understanding of Structure-Property Relation in NLO Responses of Fractal Antenna Dendrimers"J. Am. Chem. Soc.. 124. 9648-9655 (2002)
• [文献書誌] M.Takahata: "Mechanism of exciton migration of dendritic molecular aggregate : a master equation approach including weak exciton-phonon coupling"Chem. Phys. Lett.. 363. 422-428 (2002)
• [文献書誌] M.Nakano: "Intermolecular-interaction effects on quantum-phase dynamics of dimer systems interacting with a two-mode squeezed vacuum field"J. Chem. Phys.. 117. 9671-9687 (2002)
• [文献書誌] M.Nakano: "Quantum-phase dynamics of an atomic/molecular system interacting with a two-mode squeezed vacuum field : coexistence of quantum and thermal"Chem. Phys.. 286. 257-266 (2003)
• [文献書誌] M.Takahata: "Asymmetric structural effects on exciton migration of dendritic molecular aggregates"Synt. Metals. (in press).
• [文献書誌] M.Nakano: "Intermolecular-interaction effects on the quantum dynamics of dimers interacting with a two-mode squeezed vacuum field"Synt. Metals. (in press).
• [文献書誌] H.Fujita: "Remarkable enhancement of two-photon absorption in cation molecules"Synt. Metals. (in press).
• [文献書誌] S.Yamada: "Nonlinear Optical Properties of Several Charged π Conjugated Systems Including Nitrogen Atoms"Int. J. Nanoscience. (in press).
• [文献書誌] M.Nakano: "Theoretical Study on the Second Hyperpolarizabilities of Molecular Aggregates with Charged Defects"Int. J. Nanoscience. (in press).
• [文献書誌] M.Nakano: "Chapter 3 in "Organometallic Conjugation""Springer. 36 (2003)
• [文献書誌] 中野雅由: "化学便覧 応用編 II.9.1.1 計算化学"丸善. 4 (2003)