前年度までに開発を行った1エキシトンモデルに基づく緩和過程の量子マスター方程式法による数値解法を外部振動電場存在下での非線形光学効果を調べることが可能なように拡張を行った。具体的には外部振動電場下での分子系の密度行列の時系列から分極の時系列を計算し、それを数値フーリエ変換することにより、分子レベルの非線形光学特性である超分極率を計算した。特に、3次非線形光学効果を記述する第二超分極率γのスペクトルの計算を行い、エキシトン状態間の緩和や基底状態への緩和(脱励起、エキシトン消失)とγのスペクトルの形状やピーク強度の変化との関係をナノスター型デンドリティック分子集合体モデルを用いて検討した。その結果、エキシトン-フォノンカップリングに起因する状態間の純粋位相緩和の効果が主であり、ナノスター型デンドリティック系のγのスペクトルのピーク強度の低下およびブロードニングを著しく引き起こすことがわかった。 次に、ナノスター構造の変化がエキシトン移動(エネルギー移動)とγのスペクトルに及ぼす影響について検討した。構造については、ナノスター型デンドリティク系のコア領域のモノマーの相対的なエネルギー準位と各デンドロンの分岐角を変化させたモデルを考慮した。コアモノマーのエネルギー準位は単にエネルギー勾配が急なだけでなく、最隣接準位との間のエキシトン分布の重なりが重要であり、コアモノマーのエネルギー準位はこの両者の条件を満たす場合にコアへの効率的なエネルギー移動が生じることが判明した。デンドロンの分岐角度を変化させると、エキシトン状態の相対的エネルギーレベルやエキシトン分布の重なりの程度が変化し、エキシトン移動速度やその経路に大きな変化がみられることがわかった。γのスペクトルに対する効果はさらに複雑であるが、まず、分岐角度による各モノマーの遷移モーメントの向きと外部電場の振幅の向きの違いによる各スペクトル強度の相対変化が見られた。一方、動的な寄与として、分岐角度が小さくなってくると、隣接するデンドロンのモノマー間にH集合体的な分子間相互作用が生じ、γのピークの位置が大きく変化することも判明した。以上のことから、デンドリティック系の構造変化はそのエネルギー移動の経路や速度のみならず、非線形光学スペクトルの形状、ピーク位置、ピーク強度にも大きな変化をもたらすことが予想された。逆の視点から見れば、これら各種のプロパティーを化学種の変化だけでなく、それらの相対配置構造により各ユニット間の相互作用を調整することで制御可能であることが期待される。
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