初年度、交差分子線装置を用いて気相金属原子の反応を観測し、そのダイナミクスを解明する方向を確立したが、本年度はそれを発展させて(1)新しい系、特に遷移金属原子の反応に適用する、(2)レーザー光ポンピングにより金属原子励起状態を選択的に生成し、その反応を観測する、(3)反応のダイナミクスを明らかにするために重要な反応生成物の角度分布を観測する手法を開発する、ことを目指して研究を行った。 本年度反応の観測を試みた系は、炭素(C)原子およびイットリウム(Y)原子とNO、O_2などとの反応である。いずれもレーザー蒸発法によって気相原子を生成し、C原子についてはC(^1P_1-^3P_J、^3D_J-^3P_J、^3P_J^O-^3P_J)の真空紫外(128nm付近)LIFを用いて検出を行い、ビームのcharacterizationを行った。NOとの反応によって生成するCNラジカルのLIFによる検出を行った。CNラジカルのB-X遷移の近傍にレーザー蒸発によってC原子と共に生成するC_3ラジカルの強い吸収帯があり、反応生成物であるCNのLIFを感度良く観測することができなかった。Y原子についてはO_2、NOとの反応によって生成するYOの観測を行った。Y+O_2→YO+Oで生成するYOは、その基底状態Xだけではなく電子励起状態A、A'へ分布している。また、衝突エネルギーが十分高い場合はB状態も生成していることが明らかになった。基底状態については、Y原子と共にレーザー蒸発によって生成するYOが多いため、その振動・回転状態分布を決めることが今のところできないが、励起状態における振動・回転状態分布は化学発光を分光・解析することによって決定された。それによると、内部状態分布はほぼ統計的で、この反応が寿命の長い反応中間体を経て進むことが示唆された。更に、NOとの反応についてはYO基底状態のLIFの観測に成功した。振動・回転状態は非常に広い範囲に亘って分布しており、その解析によって反応機構が明らかになると思われる。
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