まず、アセチレンジコバルト錯体部位と求核部位としての芳香環を合わせ持つ新規な5炭素ユニットを合成し.これと電子豊富オレフィンとの[5+2]型付加環化反応を試みたところ、分子間付加反応は進行するものの続く分子内閉環が起らず、鎖状付加体のみが生成することが判明した。この結果から、5炭素ユニットの設計において成功の鍵を握るのが、2炭素ユニットよりも求核性が低くかつ分子内閉環には十分な反応性を示すという条件を満たす求核部位の選択にあることが確認された。そこで、芳香環に換えて環状エノールシリルエーテル部位を導入した5炭素ユニットを設計し、これと鎖状エノールシリルエーテルとの反応を検討したところ、目的とする付加環化反応が進行し双環性化合物が好収率かつ高立体選択的に得られることを見出した。さらに、2炭素ユニットとしてシロキシアレンを用いた場合にも、[5+2]型付加環化反応が円滑に進行することが明らかとなった。 一方、[6+2]型付加環化反応に関しては、先に開発したエノールシリルエーテル部位を有する6炭素ユニットに加え、新たにアリルシラン部位を有するアセチレンジコバルト錯体を合成し、これと種々の置換基を有するエノールトリイソプロピルシリルエーテルとの反応を検討した。その結果、いずれの場合もメチレンシクロオクタン誘導体が高収率かつ高立体選択的に得られ、[6+2]型付加環化反応による8員環化合物合成法の有用性を大幅に拡張することができた。これらの反応で合成された環状コバルト錯体は、還元反応により対応するオレフィンに、また酸化反応によりマレイン酸無水物にそれぞれ高収率で変換された。
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