研究概要 |
本研究では、天然物や医農薬品等の各種生理活性物質の合成に有効な多環性化合物の新規かつ効率的な合成手法の開発を目的とし、遷移金属部位を含有する1,3-双極子反応剤の創製、ならびにこれを利用した付加環化反応の開発を行った。詳細な検討の結果、分子内にカルボニル基またはイミノ基を有するアルキンに対し、タングステンカルボニル錯体をはじめとする第6周期遷移金属錯体を作用させると、金属錯体によりアルキンが求電子的に活性化され、これに分子内ヘテロ元素の求核攻撃が進行することで、各種の遷移金属含有1,3-双極子が生成することを見いだした。この遷移金属含有1,3-双極子は、イリドとしての性質とカルベン錯体としての性質を併せ持つ全く新しい反応活性種であり、電子豊富アルケン類と容易に[3+2]型付加環化反応を起こして、環状骨格を有するカルベン錯体中間体を与える。生成したカルベン錯体はさらに隣接する炭素-水素結合への挿入反応やα位置換基の1,2-転位を速やかに起こし生成物を与えることがわかった。具体的には、o-アルキニルフェニルケトンまたはアルデヒドと触媒量のタングステン錯体との反応をビニルエーテル類の存在下で行うと、含酸素多環性化合物が高収率かつ高立体選択的に得られる。また、o-アルキニル安息香酸エステルと塩化白金との反応では、置換ナフタレン誘導体が一般性良く合成できる。さらには、o-アルキニルアニリンから誘導したイミンを反応基質として用い、電子豊富アルケンの存在下、触媒量のタングステン、レニウム、白金、金錯体などを作用させると、いずれも三環性インドール誘導体を収率良く与えることも明らかにした。これらの成果は、従来類例のない金属含有1,3-双極子の創製とこれを利用した新規触媒的多環性骨格構築法を開発した点で学術的に価値があるばかりでなく、各種生理活性物質等の合成に利用可能な有用なものである。
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