研究概要 |
(1)高いひずみをもつビシクロ[2.1.1]ヘキセン(以下BCHと略記)の縮環したベンゼンおよびシクロオクタテトラエン(COT)を合成し、これらの芳香族性および反芳香族性と反応性との関連について理論と実験の両面から検討を加えた。なお、当初計画した、4個のBCHユニットの縮環したアントラセンならびに1,2,4,5-位にBCHユニットの縮環したベンゼンおよびCOTの合成について、BCH二量体とp-ベンゾキノンとの反応、BCH-1-アルデヒドの反応、BCH-ベンゼンとジシアノアセチレンとの反応などを試みたが、いずれも成功には至らなかった。 (2)理論計算により、BCH-ベンゼンおよびBCH-COTの「NICS」値および芳香族安定化エネルギーを求めた結果、BCH-ベンゼンは通常のベンゼンの約8割程度の芳香族性を、またBCH-COTは、平面性COTの仮想モデルの約3割程度の反芳香族性をもつことが推定された。 (3)BCH-ベンゼンはMCPBA酸化およびシモンズ・スミス型反応により、高収率でsyn付加物であるトリエポキシドおよびトリシクロプロパン体を与えることを見出し、これらの平面性シクロヘキサン構造をもつ新規生成物の構造をX線結晶解析によって明らかにした。 (4)BCH-COTはMCPBA酸化により、タブ構造をもったテトラエポキシドを、またシモンズ・スミス型反応により、ビスシクロプロパン体を与えることを見出し、これらの新規生成物の構造をX線結晶解析によって明らかにした。 (5)周囲をビシクロ[2.2.2]オクテンで取り囲んだ一連のオリゴチオフェン(2,3,4,6,および8量体)を合成し、これらが安定なラジカルカチオンおよびジカチオン種を与えることを見出し、それらの精密な構造を初めてX線結晶解析によって明らかにした。
|