研究概要 |
(1)高度の歪みと高いp-性をもつビシクロ[2.1.1]ヘキセン(BCH)の縮環したベンゼン(1)およびシクロオクタテトラエン(2)の合成を行い、理論計算と電気化学的測定の結果、これらがσ-π相互作用に基づくHOMOの上昇という特徴をもつことを明らかにした。またこれらの芳香族性および反芳香族性と反応性との関連について検討を加えた。 (2)ベンゼン1についてSbCl_5を用いる一電子酸化反応を行った結果、ラジカルカチオンの生成とBCHユニヅトの転位反応を経て、1,2-および3,4-位にBCHユニットの縮環したナフタレン3が得られることを見出した。単結晶X線構造解析の結果、3はBCH骨格の歪みのため従来のナフタレンとは異なった結合および電子状態をもち、極めて容易に一電子酸化されて安定なラジカルカチオンを与えることが判った。 (3)ベンゼン1はさらにMCPBA酸化およびシモンズ・スミス型反応により、高収率でsyn付加物であるトリエポキシドおよびトリシクロプロパン体を与えることを見出した。 (4)ナフタレン3は歪んだBCHユニットの効果により、その縮環部である1,4-位にラジカル性が高く、この位置で容易に基底状態酸素と反応し、定量的に酸化生成物4を与えた。単結晶X線構造解析の結果、4は、2個のシクロブタン環と三重結合を含む、ベンゾ縮環した12員環ジケトンという非常に珍しい構造を有することが明らかとなった。 (5)周囲をビシクロ[2.2.2]オクテンで取り囲んだ一連のオリゴチオフェン(2,3,4,6,および8量体)を合成し、これらが安定なラジカルカチオンおよびジカチオン種を与えることを見出し、それらの精密な構造を初めてX線結晶解析によって明らかにした。
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