非平面状のπ電子系をもつフラーレンやカーボンナノチューブなどの炭素同素体は物理・化学両面から詳細な研究が行われ、いくつもの興味ある物性が見い出されてきた。しかし、π電子ローブの突き出た空孔内の性質、特に他の分子や原子との相互作用や、外側のπ系との電子状態の違いは未だに明確ではない。申請者は先にナノメータースケールの空孔を持つベルト状の共役系化合物として[n]CPPA(CyclicPara-Phenylacetylene)1a-d(n=6〜9)を比較的安定な化合物として合成した。我々は、この分子をカーボンナノリング(CNR)と呼んでいる。この分子はフラーレン類などをはじめ、他の分子との超分子相互作用を検討する良いモデル分子と期待された。該当期間中に 1、酸素官能化されたCNRを合成し、これまでの合成法が官能基を持った系にも応用可能なことを確認した。また、それら酸素官能化CNRはフラーレン類とより安定な錯体を形成することを見出した。官能化によって溶解度が向上し、これまで最も空孔サイズの大きい12個のベンゼン環をもつCNRも得た。これらのホストを用いてカーボンナノチューブを可溶化できることを見出した。 2、1の芳香環を全てナフタレン環に置き換えたCNRを合成した。カーボンナノチューブ状の構造をもったこの化合物はフラーレンと非常に安定な錯体を形成した。この錯形成にともなってホストのコンフォメーション変化が起きること、それは芳香環の方向を揃えるようにはたらくことが示された。 3、二官能化フラーレンとCNRを用いて、ロタキサンを構築した。CNRは錯体内で振動子として働くなどの興味深い超分子動力学を明かにした。
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