研究概要 |
従来から我々が研究対象としてきた奇交互炭化水素フェナレニルの特性は,スピンが分子周辺炭素上に符号を交互に交替して分布し,大きなスピン分極構造をとっている点にある。しかし速度論的不安定性のため安定に単離することはできなかったが,これまでに種々の安定化の検討を行いこれを克服した。以下に本基盤研究Bの研究成果およびこれまでに達成している成果を含め簡単にまとめる。 1)立体保護による速度論的安定化:t-ブチル基を導入したフェナレニルを合成し,縮合多環炭化水素中性ラジカルとして初めての単離および結晶構造解析に成功した。2)ヘテロ原子置換による等電子修飾:窒素原子を二つ導入した1,3-ジアザフェナレニル系を合成・単離した。炭化水素フェナレニルとは異なる2量体構造をとることおよび窒素原子によるスピン分布のヘテロ原子効果を明らかにした。3)電子系拡張によるスピン構造変換:二つの酸素原子により電子系を拡張したオキソフェナレノキシルを安定な結晶として単離した。スピン密度分布がフェナレニルとは対照的に反転することを明らかにした。4)二次元電子系拡張:t-ブチル基を導入したトリアンギュレンの検出と基底状態が3重項の高スピン分子であることを証明した。これは非ケクレ型縮合多環芳香族炭化水素系で初めての実験結果であり,60年来の懸案を解決した。5)高度両性多段階レドックス系:フェナレニル骨格を3個導入した中性ラジカルが,高度な両性度を示すこと,しかも6段階のレドックス系として挙動する事を明らかにした。
|