MMX-chain系の単結晶試料において、室温から極低温までの 電気伝導度・ゼーベック係数・比熱等の実験を行ない、キャリヤーの種類・濃度、伝導電子の散乱機構等の輸送現象について明らかにした。遍歴磁性等の磁気的相互作用の発現が期待される系や磁場誘起効果が観られるNi_2(dta)_4Iにおいては、ESR・SQUID・NMRの測定を行った。電荷秩序転移の際には電荷の偏りがダイマー内で生じることから、誘電率に異常が現れることが期待され、LCRメータを用いて誘電率の温度依存性の測定を行った。 MMX-chain系では、ダイマー内あるいはダイマー間の原子価間電荷移動励起が強く絡むため、強い反射が一次元鎖方向に期待され、単結晶試料による反射スペクトルの測定を行った。これに先立つ物質設計、構造制御は秩序変革の発現の重要な基礎となった。DFT計算から知見も得た。また、高圧力は連続的な構造変化を可能にするので、高圧力による相転移創出も試みた。極低温下まで電子の遍歴性は安定化され、各種ゆらぎと秩序化相転移との競合が観測された。 さらに電解合成法や気相ドーピング法によるフィリング制御を試みた。特に陰極のグラッシーカーボン電極上に中性鎖であるMMX-Chain錯体の単結晶を接触させ、半透膜で固定した後、適当な電解質(LiNO_3等)で鎖間にLiイオンを電気化学的にドーピングした。これはモット境界近傍に潜む異常金属相や超伝導相の探索、そして磁場誘起相転移現象の解明に威力を発揮すると期待した。本系のようなスピン-電荷-格子系において、キャリアードーピングにより多量の非線形励起子が生成した場合、その凝縮相については全く未知の問題であり、動的な価数揺動・スピン揺動・負U相互作用に起因する格子揺動あるいは非線形な素励起を引き起こすことが期待され、現在得られた試料の諸物性を測定中である。
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