結晶の複屈折は旋光能よりも3桁も大きいために測定が難しく、今までほとんど測定されていなかった。このため数年前、結晶用精密旋光能測定装置HAUPを化学の分野で初めて導入した。次いで、結晶の円二色性スペクトルを測定するために、HAUPの進化型ともいうべき、異方性物質光学定数測定装置を設計、製作した。本装置の光源はキセノンランプを用いており、390? 800nmの連続波長で測定できる。試料は水平にセットし、光は上から垂直に入射させる縦型である。試料の温度制御部はペルチェ素子を用いており、室温よりも10℃低い温度から最高100℃まで変えることができる。円二色性スペクトルの測定では、二次元法により沢山のデータをとる必要があるため、測定ソフトもかなり充実したものを作製した。装置の性能をチェックするために、標準試料として石英を測定した結果、良好な結果が得られた。有機結晶については、現在、検討中である。 有機結晶は柔らかいために、研摩が当初より問題になっていたが、柔らかい酸化鉄の研磨剤で最終仕上げをすることにより、測定誤差の小さい満足し得る結果が得られるようになった。その結果、トリプタミンと4-クロロ安息香酸のキラル複合結晶中に形成されたヘリックス構造により、大きな旋光能が誘導されることを明らかにした。本研究は、キラル有機結晶の光学活性の研究のランドマークとなった。また、イソプロピルベンゾフェノン誘導体をモデル化合物として絶対不斉合成の設計を検討していたが、この程、類似の化合物の結晶構造から情報を得ることにより、絶対不斉光環化反応に成功した。
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