マンガンポルフィリンと電子受容体とから構成される電荷移動錯体([Mn^<III>Por]+[A]^・)は、(1)配位結合を伴った一次元鎖状構造を有すること、(2)二価のマンガンから電子受容体に完全に一電子移動したイオン性の基底状態を有すること、(3)比較的高温(〜20K)で分子性フェリ磁石として挙動すること、(4)秩序磁性の発現には、均一な一次元構造が必要とされること等を明らかにしていた。そこで、本研究課題では、秩序磁性の発現に重要な因子と考えられている分子配列の次元性の評価を計画した。 【成果1:交流磁化率に於ける周波数依存性】外部磁場を高速に反転させる交流磁化率法は、物質の磁化の緩和過程に関する情報を提供する優れた測定手段であることが知られている。そこで、既に合成した錯体について、交流磁化率法を用いて、再評価を行った。その結果、いくつかの物質に於いて顕著な周波数依存性が見出された。結晶構造解析の結果は、この現象がスピングラスである可能性を除外する。詳細に磁気挙動のデータを解析した結果、これらの物質は、一本の一次元鎖が磁石として挙動する単一次元鎖磁石であることが明らかとなった。すなわち、ポルフィリン配位子が巨大であるため、隣接する一次元鎖との距離が伸張し(〜20Å)、隣接する鎖間の交換相互作用が完全に消失し、このような特異な現象が発現したと考えることが出来る。 【成果2:ポルフィリン多量体を用いた次元性の評価】[Mn^IIIPor]+[A]^・系は、確実に一次元鎖状構造を与えるが、一次元鎖間の空間的配置の制御は困難である。そこで、数個のポルフィリン配位子を共有結合によって連結した配位子を用いることを計画した。これらの配位子を用いることにより、鎖間の相互作用を完全に制御することが可能になると考えられ、次元性と磁性との関連を評価することが出来る。具体的には、星型をした多量体配位子の設計を行い、固体化学に提供できるだけの十分な量(〜2g)のサンプルの合成に成功した。現在、電荷移動錯体の合成と機能評価を行っている。
|