研究概要 |
水素エネルギーは、現在我々が直面しているエネルギー問題を解決する切り札として期待を集めており、その利用技術の研究開発が精力的に行われている。水素エネルギーの利点は、燃焼時に地球温暖化の要因であるCO_2を放出せず、且つ地上に無尽蔵に存在する水と太陽光エネルギーから製造できる点である。しかし、太陽エネルギーを利用した水の光分解反応による水素ガス、及び酸素ガスの製造技術は未だ十分に達成されておらず、研究開発の飛躍的な進展が望まれている。 本研究では、光増感剤であるトリス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム(II)錯体([Ru(bpy)_3]^<2+>)と、水素発生触媒機能を有する白金(II)錯体を共有結合により連結した単分子光水素発生デバイスを構築し、それらが高活性デバイスとして機能するための鍵構造を探求することを目的とした。特に、(a)触媒活性中心である白金(II)錯体部位、及び(b)ルテニウム(II)錯体と白金(II)錯体とを連結する架橋部位の電子状態制御に焦点をあて、研究を行った。 前者(a)については、白金(II)錯体の構造と触媒活性との相関について有意義な知見を得てきた。特に、白金(II)錯体の電子構造を系統的に変化させ、その触媒活性能を評価することにより、白金配位平面に対して垂直方向に広がるd_z_2軌道のエネルギー不安定化が水素生成触媒活性の向上につながることを見出した。また、錯体の触媒反応溶液中における配位子置換反応が見かけの触媒活性に有意義な変化を与えることも確認した。 他方、後者(b)ルテニウム(II)錯体と白金(II)錯体とを連結する架橋部位の電子状態制御においては、架橋配位子の微妙な構造修正を系統的に行い、それに伴う触媒活性の変動や光触媒機構の違いについて詳細に検討した。その結果、二つのビピリジン誘導体をペプチド結合で架橋した配位子において、高い触媒活性が得られることがわかった。 本研究では、当初目的としたナノデバイスの構築には至らなかったものの、多くの有用な知見を得ることができた。今後本課題の成果を基に、さらに効果的な、実用的光水素発生デバイスの構築が実現することを期待する。
|