研究概要 |
β-シクロデキストリン(β-CD)の全ての水酸基をOCH_3化したパーメチル化β-CD(TMe-β-CD)は、アニオン性のポルフィリンであるテトラキス(p-スルホナトフェニル)ポルフィリン(TPPS)のメソ位の置換基を極めて強く包接し、トランス型の1:2錯体を形成する。この錯体の水中での結合定数(K)は実験的に決定できない程度に大きく、そのため、エチレングリコール-水(EG-H_2O)混合溶媒中でKを決定した。3:1 EG-H_2O中のKはK_1=2 x 10^4 M^<-1>,K_2=5.8x10^4 M^<-1>ともとまり、有機溶媒-水中のKとしては、異常に大きな値であった。この錯体生成の熱力学的パラメータをvan't Hoffプロットから決定したところ、錯形成は大きな負のエンタルピーとエントロピー変化を伴い、エンタルピー的に有利な過程であることが明らかとなった。一方、メソ位にフェニル基を有し、そのパラ位にアルキルピリジニウム基を持つカチオン性のポルフィリンでは、同様な条件下では、Kはかなり小さな値となった(K for TPPOC3Py : K_1=2.3x10^3 M^<-1>, K_2=9.4 x 10^3M^<-1>)。このことより、TMe-β-CDの疎水的空洞は、アニオンゲストにはなじみ易く、カチオンゲストとは反発する性質を有することが明らかとなった。このことをさらに動的に確認する目的で、包接過程の速度をストップドフロー法で決定した。予想通り、アニオンゲストの包接速度は、カチオンゲストのそれよりもかなり速く、動的な手法でも、TMe-β-CDの空洞がアニオンを好み、カチオンを嫌うことが証明できた。 これらの結果を基に、人工酵素系の構築に着手した。Fe(III)TPPSもやはりTMe-β-CDと安定な1:2錯体を形成する。この錯体の鉄(III)周りの疎水性は極めて高く、水中では配位することのない塩化物イオンや臭化物イオンがいとも簡単に鉄に配位することを見出した。鉄に限らず、各種アニオンやアミン類が鉄に配位することが次第に分かってきた。正しく金属たんぱく質の金属周りと同様の環境が2つのTMe-β-CDによって提供されていることが明らかになった。今後はこの特徴を活かして、超単純人工酵素系の構築を検討する予定である。
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