有機物を用いた半導体デバイスは、エレクトロニクス産業に与える影響が大きいことから、基礎・応用研究として大きな注目を集めている。有機エレクトロニクス素子は、フレキシブルな基板が使えるなどシリコン半導体にはない特徴が活かせる可能性がある。我々は、新規な有機半導体としてアセンオリゴマーを提案し、ナフタレンオリゴマー(nN)およびアントラセンオリゴマー(nA)をSuzukiカップリング反応により合成した。ナフタレンオリゴマーは無色結晶、アントラセンオリゴマーは明るい黄色結晶である。3N、4N、2A、および3Aは高い融点と耐熱性をもつが、ジヘキシル体DH-2AおよびDH-3Aはアルキル基により分解温度が低下した。ナフタレンオリゴマーは溶液で青紫色、固体で青色の強い蛍光を示す。アントラセンオリゴマーは溶液で青色、固体で青緑から緑色の強い蛍光を示す。電気化学測定によると、アントラセンオリゴマーは比較的安定なラジカルカチオンを与えるが、酸化電位はテトラセンより高い。真空蒸着によって作成したアセンオリゴマーの薄膜は高い結晶性を示し、SiO_2/Si基板に垂直か少し傾いて立っている。3Nおよび4NのFETを種々の基板温度で作成したが、FET動作は観測されなかった。一方、アントラセンオリゴマーではトランジスタ動作が見られ、移動度が2A<3A<DH-2A<DH-3Aの順で向上した。特にDH-3Aは0.18cm^2/Vsとアモルファスシリコンに近い移動度を持つ。チオフェンオリゴマーは最もよく研究された有機トランジスタ材料であるが、アントラセンオリゴマーはそれより優れていることがわかった。FETの移動度を上げるためは、有機半導体のイオン化電位を下げることより薄膜の質を向上させることのほうが重要である。そのため、分子を秩序よく並べ、欠陥を少なくすることを第一に考えて分子設計する必要がある。
|