本研究の成否は典型元素を活性中心とするルイス酸触媒を如何に分子設計するかにかかっている。平成16年度は平成14、15年度の成果をもとに典型元素としてリン原子を選択し、これを活性中心とするルイス酸触媒の開発を検討した。まず、これまでの超原子価化合物の構造化学的な知見をもとに超原子価結合をとりうる基本的な骨格を設計した。一般に超原子価結合は電子求引性置換基によって安定化されること、また、リンは超原子価結合を形成した際に三方両錐構造をとることが報告されている。そこで、三方両錐構造の安定化を図るための環構造の導入と、電子求引基の導入を分子設計の指針として研究を進めた。 リン原子を活性中心とする場合、5員環を主な環構造とし、電子求引性置換基にはフェノールあるいはスルホンアミドなどを導入したいくつかのホスホニウム塩を合成し、ルイス塩基との相互作用の有無を観測した。その結果、カテコール誘導体である5員環ジオキサホスファサイクルの場合にルイス塩基との配位が観測された。さらに、このホスホニウム塩をルイス酸触媒として用いたところ、Diels-Alder反応の顕著な加速が観測された。他のホスホニウム塩では触媒活性が認められなかったことから、構造と活性に大きな相関があることを見出した。触媒活性発現にはジオキサホスファサイクル構造の導入が重要であり、残り2つのリン上の置換基はsp^2、sp^3炭素いずれを導入しても触媒活性が観測されることを明らかにした。リン原子を活性中心とするルイス酸触媒の開発にはじめて成功した。
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