研究概要 |
ヒト白血球抗原(HLA)-DRB1遺伝子は、250以上の対立遺伝子を持つ非常に多型性に富んだ遺伝子である。さらに、DRB1遺伝子と連鎖する機能遺伝子の種類や偽遺伝子の有無によってその領域は少なくとも5つのハプロタイプグループ(DRグループ)に分類される。我々は、そのDRハプロタイプグループを基にDRB1遺伝子の多様化、系統進化についての解析を行った。前年度の我々の研究で、DR53グループ(DRB1*07,*04,*09対立遺伝子が属している)特異的に存在する偽遺伝子(Processed Pseudogene)と、その偽遺伝子とDRB1遺伝子を挟むニュートラルな領域(CFDRと暫定的に呼ぶ)との間(偽遺伝子-CFDR)のハプロタイプを解析した。その結果、DR53グループに属する、ヒトDRB1*07,*04そしてチンプDRB1*0701を含むハプロタイプが互いに良く似ていることを明かにし、DR53グループに属するDRB1対立遺伝子が共通祖先のDR53ハプロタイプから由来していることを示唆した。これらの結果を基に、本年度は、偽遺伝子、CFDR領域、DRB1対立遺伝子(DR53グループに限る)の塩基置換率そして進化速度を解析した。その結果、偽遺伝子、CFDR領域の塩基置換率はほぼ同じであったのに対して、DRB1対立遺伝子の塩基置換率はそれらに比べて高く、その塩基置換率を基に算出した進化速度は、ニュートラルな領域(偽遺伝子も含む)の進化速度よりも速いことが示された。これらの結果から、この速い進化速度が、DRB1遺伝子の多様化に貢献している可能性が考えられた。昨年度、そして本年度の研究成果から、従来のDRB1塩基配列データに基づく系統進化研究だけではなく、ハプロタイプを基にしたDRB1遺伝子の系統進化研究の重要性が示された。
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