我々は、哺乳動物複製起点と核マトリックス結合領域の双方を持つプラスミドが、効率よく遺伝子増幅を起こし、ヒトがん細胞に見られる増幅構造(染色体外のDMや染色体上のHSR)と同様な構造を形成することを見いだしていた。本年度には、この実験系を用いて下記1)〜4)について検討したと共に、より一般的な法則を知るために5)の検討を行った。1)増幅領域の形成機構;プラスミド構造を不安定化するシス構造の理解が、複製と転写の衝突を始めとして、大きく深まった。これを逆に利用して、安定に複製・維持されるプラスミドの構築を現在検討中である。また、2色FISH法等を用いた解析により、増幅構造の形成機構に関するモデルがほぼ完成した。2)生細胞内での増幅領域の可視化;BFB cycleによるHSR形成で中心的な役割を演じるanaphase bridgeの解消過程の解明について、大きな成果が得られた。3)増幅領域の複製状況;均質な反復配列からなるHSRは複製タイミングに関するバンド構造を持つことを見いだした。このごとと、核内での複製状況を詳細に調べることにより、数十メガ塩基対に及ぶHSRが核内でどのように折り畳まれ、それがどのように複製されるかについて、重要なモデルが得られた。4)増幅領域からの転写状況;遺伝子コピー数あたりの転写量はごくわずかだった。これは、発がん過程で生じた増幅領域からの転写と大きく異なっていた。現在、様々な方法により、ヘテロクロマチン化抑制を試みている。一方、in situ解析の結果、核内の局在場所や、微小核に取り込まれることにより、転写状況が大きく変化することを見いだした。5)微小注入されたDNAの細胞内動態の生細胞観察;環状と直鎖状DNA分子を核内と細胞質内に注入し、短時間(数秒から数分)と長時間(数十分から数日)の細胞内動態を生細胞で追跡することにより成果を挙げた。
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